最近、大学教員が多忙化していると言われています。
以前は、大学教員と言えば自分の好きなように研究をし、時々授業をする「自由業」と思われている節もありました。
実際、昔の大学教員は時間的余裕があったようですが、今ではそのようなケースは少ないと考えられます。
大学教員はいったいどれくらい多忙化しているのでしょうか。また、大学によっては多忙化しすぎてブラックと言えるほどの職場環境になっているところもあります。いったいどのような状況なのでしょうか。
この記事では、大学教員の多忙化とブラックな職場環境について、データや事例を見ながら解説します。
多忙化の実態
まずは、大学教員の多忙化についてデータや事例を見てみましょう。
多忙化がわかるデータ
文部科学省「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」を紹介します。
次のグラフを見てください。
(文部科学省「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」)
大学教員が何に時間を費やしているか、割合を示したものです。これを見ると、研究時間が徐々に少なくなっているのがわかります。
研究を行うことが大学教員の本分の1つですが、これほど目に見えて少なくなっているのですね。
その代わり、教育活動と社会サービス活動(大学の付属病院等における診療や治療を指します)の一部が増えています。
多忙な大学教員の声
知り合いの大学教員と話す中で、多忙化についての声を時々耳にします。
少しご紹介します。
- 以前に比べて授業のコマ数が増えてきている
- 大学が入学者数を増やしているからか、ゼミ生の数が増えて大変
- 研究に回す時間は夜しかなくなっているが、夜は疲労がたまっている
- 学生対応で休憩時間が取れないことも多い
彼らはもちろん、以前よりも責任のある職に就いていることで多忙化していることもありますが、それ以上に大学の変化を嘆いているようです。
一体どのような変化が起こっているのでしょうか。
多忙化の実態を紐解いていきましょう。
多忙化の理由①:教育活動の増大
多忙化の理由の1つ目は、教育活動の増大です。教育活動も大切なことなのですが、増えすぎると大変ですよね。
教育活動はなぜ増える?
近年、多くの大学で、さまざまな経費削減が試みられています。
文科省からの補助金も少なくなっていますし、経営を悪化させないために各大学が必死です。
人件費もその1つです。
定年退職した教員の後に本来ならば誰かが雇用されなければならないのですが、雇用されずにそのまま、ということがあります。
すると、その教員が担当していた授業は必然的に残っている教員で割り振らなければなりません。
1コマ増えるだけでも負担はなかなか大きいものです。1コマならばいいかもしれませんが、それが年々積み重なってしまうとかなりの負担になりますね。
教育活動が増えすぎるとどうなる?
大学教員の教育活動が増えすぎ、負担になってしまうとどうなるのでしょうか?
グラフで見たように研究活動ができなくなるのは当然ながら、教育の質が下がってしまいます。
- いかに昨年度までの資料を使い回せるか
- いかに授業時間中に学生に作業をさせて楽をするか
- いかに採点を楽にするか
というところに工夫を凝らし始めることになります。
これでは学生から不満が出るでしょうし、結果的に大学の評価が下がることにも繋がりかねません。
また、授業準備というのはかなり時間を費やしますので、当然ながら教員の健康を害することにもなりかねません。
多忙化の理由②学生対応
次に、学生対応です。
学生対応はなぜ増える?
ある頃から、大学では学生をとても丁重に扱うようになりました。いわゆる「お客様」です。
以前は、授業に出席せず試験の得点が低ければ単位は付与しない、ということで終わっていました。しかし、今では学生全員ができるだけ留年せず卒業できるよう、大学は努めています。これも大学の評価に関わるからです。
そうすると、セメスターの終盤になると、単位が取れなかった学生への対応が求められます。
こうしているうちに、何らかの方法で単位が取得できる、と学生の方もわかってきます。
すると、出席していないけれども単位が欲しいが学生が教員の研究室に訪れ、どうにか単位が取得できるよう交渉したりします。
大学によってはこのような学生対応に苦労している教員も多いそうです。
学生対応が増えすぎるとどうなる?
大学教員は授業のない時間帯には、自分の研究をしたり、いくつもの委員会会議に出席したり、事務作業に追われたりしています。
そのような中で学生が研究室に来て交渉を始めてしまうと、かなり時間を費やすことになります。
出席が足りていないから、と一言で追い返してしまうこともなかなかできません。
こうした学生対応も、教員の研究やその他時間が少なくなる原因になり、また精神的なストレスにもなりそうです。
多忙化の理由③オンライン授業
最後に、コロナの影響によるオンライン授業です。
最初に挙げたデータはコロナが問題化する以前のものでした。大学教員の多忙化に影響する最新の話題として、取り上げます。
オンライン授業で多忙になる?
大学教育学会が行ったアンケートで、以下のようなことがわかりました。
- 遠隔授業によって授業準備が増えた:83.4%
- 課題の採点に費やす時間が増えた:7割近く
- 授業対応のために研究時間が減った:67.6%
かなりの影響が出ていますね。
オンライン授業を行うとなると、まずは技術的な面での準備が必要になります。ソフトの導入や機器類の準備、また場合によっては自宅の環境整備も必要だったかもしれません。
そして、オンラインで伝わりやすいレジュメ作成や、録画・録音などの工夫が求められました。
特にそれまで紙ベースで授業をしていた教員にとっては、かなりの影響と負担になります。
オンライン授業で多忙になるとどうなる?
オンライン授業の準備や課題の採点で多忙になると、やはり結果的に研究にかける時間が減ります。
ただそれだけではありません。
オンライン授業はかなり多くの科目に対して切り替えを求められましたので、人によっては持っているコマ数が多いとそれに応じて負担も増大します。
知り合いの教員の中には睡眠時間を削って準備や採点を行ったという人もおり、とても研究どころではなかった人もいると推測されます。
大学教員の多忙化まとめ
- 大学教員の研究時間は年々減っている
- 担当コマ数が増え、教育活動の負担が増大している
- 大学の卒業率を上げるため、単位が取れるようサポートする学生対応に時間を咲いている
- コロナの影響でオンライン授業の準備などに時間を割いている
日本の大学の研究力は世界の中で下がっているとも言われています。良質な論文が書けるよう、研究活動に費やす時間がこれ以上減らないことを願っています。
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