最近、「働き方改革」という言葉をよく耳にするようになりました。
「働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で『選択』できるようにするための改革」
(厚生労働省)
で、2019年から大企業で実施され、2020年からは中小企業もその対象になっています。大学ももちろんその対象です。
では、大学では一体どのような取り組みが行われているのでしょうか?
この記事では、これから大学で勤務したいと思っている人や勤務し始めた若手研究者に向けて、大学の働き方改革の実情をお伝えします。
また、文系と理系ではそもそもの労働環境や職務内容が異なります。ここでは、文系に焦点を当てて見ていきましょう。
大学の働き方改革とは?
働き方改革には9つのテーマがありますが、その中で特に大学に関連しているもの、大学に期待されるものを紹介します。
非正規雇用の処遇改善
大学教員というと教授・准教授といった正規雇用の専任教員が想起されがちですが、実際には非正規雇用で働いている研究者も多くいます。
例えば、特任准教授、特任助教、非常勤講師などです。「特任」や「非常勤」と名の付かない助手や研究員なども非正規雇用に含まれます。
彼らは給与が低いことが多く、大学勤務というイメージの良さとは裏腹に、生活するのがやっとだったり副業をしていたりと困難な状況にあります。
働き方改革の1つである非正規雇用の処遇改善では同じ仕事をする正規雇用の職員と差を埋めることが目指されています。
非正規教員の給与・処遇の改善が期待されます。
長時間労働の是正
大学教員の労働時間はどれくらいなのでしょうか?
東京大学環境安全本部助教であり産業医でもある黒田玲子氏の2017年の調査報告では、所定外労働時間が月に80時間以上である割合が3割程度であり、企業の研究者に比べかなり多いことを指摘しています。また、土日に仕事をしている割合も高く見られました。大学教員の6割が過重労働感を感じているとのことです。
(参考URL:https://www.zsisz.or.jp/investigation/investigation01/kako/28.html)
それでも大学教員が研究に割ける割合は仕事時間の3割ほどで、他は教育活動、運営・管理に充てなければなりません。
働き方改革により、研究により専念できる環境が必要です。
柔軟な働き方がしやすい環境整備
大学教員は、決まった時間職場で仕事をする職種ではありません。決まった時間授業は行いますが、研究に関しては一定の成果を上げることで成り立っています。
ですので、朝決まった時間に出勤簿に押印する(もしくはタイムカードを切る)という方法は理想的な働き方にそぐわないと考えられます。
文系の場合、集中できる環境で本や論文を読んだり書いたりすることで業績に繋がります。自分の裁量で、「今朝は授業までの時間は自宅で論文執筆に充てる」などの柔軟性が必要です。
裁量労働制が導入されたり、在宅ワークが自由にできる環境が求められます。
大学の働き方改革、どんな取り組み?
次に、大学における働き方改革の改善例を紹介します。
事例①:時間管理
長崎大学ダイバーシティ推進センターの事例です。
この組織で取り組んだことは、
- 会議の所要時間を決めた
- 共有フォルダや紙ファイルを整理した
- 1日の業務を朝と夕方に共有して確認した
- やりたいが時間が取れないことについて、時間を確保した
- 30分の隙間時間でやりたいことを行い、自己研鑽にも励んだ
などの内容でした(https://www.cdi.nagasaki-u.ac.jp/)。
大学では会議に所要時間が定められていないことが多くあります。時間管理をするというのはとても重要ですし、ワークライフバランスに欠かせないですね。
隙間時間でいかに自己研鑽できるかというのは個人単位で業務を行っている教員にも応用できそうです。
事例②裁量労働制の導入と有給休暇の付与
早稲田大学の事例です。
早稲田大学では、専任教員に対し、専門業務型裁量労働制を導入しました。
また、「年5日の年次有給休暇の確実な取得」のため、専任教員に対しては有給休暇を特定の時期に一斉付与することにしました。また、非常勤研究員・職員に対しても、各自の申請に応じて付与することにしました(http://www.acpa.jp/kijun/management/document201911_02.pdf)。
非常勤研究員・職員も有給申請ができるのはとても有難いですね。
現在、大学での働き方改革の事例はあまり集まっておらず、各大学がまだ取り組み段階にあるのかもしれません。これからの改善に期待したいところです。
大学の働き方改革、変わりにくい?
大学の研究者には、「働き方改革という発想がそもそもそぐわない」とする考え方もあります。それゆえ変わりにくい部分もあります。
研究=仕事なのか?
特に文系の研究者の場合、研究がどこまで仕事なのかわかりにくい部分もあります。自宅や研究室で深夜に論文を読んだりしても、自分の好きでやっていることであったり自己研鑽の範囲だと捉えることができるからです。
ですので、教育や運営の仕事は業務として管理されるべきですが、研究の時間は管理されると困ってしまいます。
さらに、どうしても研究業績という成果で評価されるため、成果を出すための時間を制限されるわけにはいきません。
とはいっても教育や運営の仕事が過重であったり、それゆえ深夜まで研究をすることで健康に害を及ぼすことは良いことではないので、業務の質に応じて改革が進むとよいですね。
やりがい搾取
若手研究者で研究員などの職に就き、その組織の研究業務を担当している場合、それは自分自身が好きでやっている研究とはやや異なる場合があります。
しかし、成果を出すためには自分のプライベートを削って研究業務をすることもあるでしょう。
若手研究者の場合、成果を出さなければ次の仕事に繋がらないとか、上司の要求に全力以上の力で応えなければと、つい仕事をしすぎてしまいます。
そこにつけこんで仕事をさせると、「やりがい搾取」になってしまい、若手研究者はより働いてしまうという悪循環に陥ります。
成果を出すためには何もかも犠牲にするのではなく、プライベートも健康も大事にできるような組織のマネジメントが必要です。
大学の働き方改革まとめ
- 大学では、長時間労働の是正や柔軟な働き方の導入などの面で改革が求められている
- 時間管理で成功している事例もあるが、多くはまだ取り組み中で、これからの改善に期待
- 研究という仕事は管理される「業務」ではなく、働き方改革の内容をそのまま当てはめることには無理がある
- 若手の場合、成果を求めてワークライフバランスを崩していることも多く、改善には時間がかかる
研究という特殊な仕事は重んじられる必要があると感じます。これから多くの改善事例が報告され、大学同士の刺激になり、改革が進むことを期待したいですね。
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