博士課程修了後、専任教員に就くまでの間、多くの研究者が「ポスドク」と呼ばれる状態です。
実際に「PD」という職に就いている場合もあれば、非常勤研究員や非常勤講師をしている場合もあります。
ただしいずれも任期付きであったり単年度更新であったり、中にはブラックな職場で働いていたりと不安定な生活を送っている方も多いでしょう。
このため、ポスドクから民間企業に転職する人も多いのです。
では、実際にポスドクから企業に転職した人たちの実態とはどのようなものなのでしょうか。
理系の実例をいくつかご紹介します!
工学系ポスドクからデータサイエンティストへ
Qiitaからの引用です。
(https://qiita.com/tk-ml/items/92fe764cc2725095f0ed)
ある工学系の研究者の話です。
ポスドクとして機械学習の研究をしていたそうですが、最初は自分の研究が出来ていたけれども、徐々にそこから離れた仕事をせざるを得なくなりました。
そのことをきっかけにアカデミアの外に関心を持つようになり、転職を決意します。
転職先はとてもマッチした会社だったそうですが、転職成功までの道のりは険しかったようです。
ポイント:転職までの道のり
転職活動を始めてから、なかなか採用に至らず苦労したそうです。
その原因の1つは、大学での研究経験が評価されなかったことでした。
他にも要因がありました。
- アラフォーである
明言はされなかったものの、年齢フィルターを感じたようです。
35歳を超えると転職しにくくなるというのは本当なのですね。 - 民間企業での就業経験が少ない
これはポスドクの場合は仕方ないことでしょう。
それでも研究経験を評価してくれた企業はあったので、マッチング次第ですね。 - マネジメント経験がない
アラフォーになるとマネジメントを期待されます。
ポスドクという立場だとまだまだマネジメントされる側ですので、経験を積むことは難しいですね。
そんな中でもやっておいてよかったことは、
- プログラミング技術を習得した
- 同じ職種のオンラインコミュニティに入会し、サポートを受けた
- 論文執筆・学会発表をした
ということでした。
最終的には専門性を生かしつつ、研究経験をきちんと評価してくれて雰囲気も合う会社への転職ができ、大成功ですね。
バイオ系ポスドクから営業コンサル職へ
個人ブログからの引用です。
(http://datsuaka.blog.fc2.com/)
バイオ系のある研究者は、営業コンサル職への転職を果たしました。
年齢は30代後半。
転職を決意した理由については明記されていませんが、文面から想像するに、任期付のポスドクという立場の辛さ・不安定さなど、日本のアカデミアに対するネガティブな感情があったのでしょう。
転職活動はやや難航し、10ヶ月にわたる転職活動の中で、60社以上に応募してようやく内定を得ました。
この長い転職活動をする中で、自分の価値観に変化が生じたそうです。
ポイント:長い転職活動と価値観の変化
最初に研究職への転職が難しいとわかり、研究職というキーワードを外すことにしました。
その結果、別の職種に就いた場合にやりたい仕事を考えていると、多くのアイディアが湧いてきました。
それでもなかなか採用には至らず、次に大手というキーワードも外すことにします。
しかし、年収の現状維持という最後に残された条件をクリアすることも叶いませんでした。
当初の希望通りに進まなかった要因を分析しています。
- 年齢
- マネジメント経験のなさ
- オーバースペック
年齢やマネジメント経験については他とも共通することですが、オーバースペックであると指摘されたこともあったそうです。
つまり、博士号を持っているというだけで既存の社員と合わないと判断されていたわけです。
結果的に、年収の現状維持という条件も取っ払い、ベンチャー企業の営業コンサルとして採用されるに至りました。
当初の希望とはまったく異なり、しかも年収も1割ほど減ってしまいました。
それでも転職活動の中で改めて自分の適性を見直し、その企業で成功したいという強い気持ちまで湧き、新たな夢を持つことができました。
ポスドクからの転職活動でしたが、研究職というこだわりを捨てて企業研究をし、その中で目標を立て直すことで新たな道が見つかった事例でした。
40代で2回の転職成功!?
個人ブログからの引用です。
(https://rkrismz-english.work/English/column/6777/)
この理系研究者は、なんと47歳でアカデミアから転職、その後49歳で再転職を成功させました。
驚くべき記録ですね。
アカデミアから企業を目指した理由は明記されてはいませんが、おそらく任期付きの不安定さなど、大学研究職への不満が原因であったと推測されます。
それにしても、アカデミアからの最初の転職が47歳というところからしてかなりのツワモノです。
この方は、アカデミア時代からの専門性を武器に転職を成功させました。
転職活動と並行して自身の研究も進めていましたが、登録していた転職エージェントから条件の良いスカウトが届き、結局年収がアップすることに惹かれて転職を決意したそうです。
ポイント:転職成功の秘訣
40代後半という年齢で転職を成功させた秘訣は、3つあるようです。
1つ目は、研究で培った専門性を存分に生かしたこと。
前提として、専門性を生かせる職があるというところからですが、この方の場合は理系で、うまく専門に結びつく職が見つかったのですね。
専門性以外にも、論理的思考能力や英語・統計のスキル、プレゼンスキル、さらには予算獲得スキルや学会発表、共同研究といった研究で磨いてきたあらゆるスキルをアピールしています。
2つ目は、日本の企業にありがちな「博士アレルギー」を払拭させたこと。
日本の企業の多くが、博士という人材にアレルギーを抱いています。
それは、コミュニケーション能力が低いとか、柔軟性が低い、研究分野以外に興味を持たないのではないか、といった考えです。
こうした固定観念を面接時のアピールで払拭させたことで成功に至りました。
3つ目は、転職エージェントをうまく活用したこと。
専門特化のエージェント、総合的なエージェント、ハイクラス対象のエージェントにそれぞれ登録しました。
登録するだけでなく、定期的に登録情報を更新することで、スカウトが届きやすくなるそうです。
そして基本的にスカウトを待つという姿勢で取り組みました。
これはスカウトの方が成功率が高くなる、という理由でした。
効率的に情報を得て自分の強みをうまくアピールできれば40代の転職も夢ではありませんね。
バイオ系ポスドクから会計の世界へ
個人ブログからの引用です。
(http://postdoc-tensyoku.link/tensyoku-005/)
東大を出てバイオ系のポスドクをしていたこの研究者は、アカデミアの世界の不自由さや理不尽さから逃れようと、いったんはメーカーに転職します。
しかしメーカーで働きながら、突如、米国公認会計士(USCPA)の資格を目指します。
当初の期待としては、その資格を取れば経営というものを知ることができ、キャリアアップにもなるという考えでした。
メーカーで働きながら無事に資格を取得し、その後監査法人へと転職を果たします。
ところが、監査法人での「ルールに縛られた仕事」に強烈な違和感と圧迫感を覚えることになり、この転職は失敗だったという判断に至ります。
ポイント:憧れたが、適性がなかった世界
監査法人への転職が失敗だったと判断したのは、「100点満点がある仕事」への違和感からでした。
この監査法人での仕事は、小さな仕事も1つ1つ、どれをとってもやり方が決まっていて、それに従うことが正解とされていました。
それに従った上で仕事を早く行うことができてはじめて、人との差別化ができるという環境でした。
この仕事を「ルール通りでない行動をした分だけ点数が引かれていき、どんなに頑張っても100点が最高得点の世界」と表現しています。
研究者をしていたときには「正解のない問い」に向き合ってきたことから、ルールに従う正解のある仕事に自分がむいていないと感じ始めます。
結果、監査法人への転職は失敗だったと結論付け、さらなる転職を決意しました。
ポスドクの転職事例まとめ
- 35歳以上になると転職は基本的に難航する。
- ポスドクの場合、民間企業経験のなさやマネジメント経験のなさも加わって、転職活動が長引くことがある。
- 憧れがあっても適性のない職に転職するとかなり苦労を強いられる。
- 時には自分の仕事に対するこだわりを捨て、価値観を転換させることも必要。
- 転職成功の秘訣は、専門性の活用や新たなスキルの習得、転職エージェントの活用、オンラインでの同業者からのサポートなど。
- これらがすべてうまくいけば、40歳以上でも転職成功の可能性は高まる。
やはり転職活動が難航したり、採用されても失敗だったということも起こり得ます。採用されれば転職が成功というわけではなく、その後長く働いてキャリア形成できることが必要ですね。
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