文系研究者を目指している人は、「ゆくゆくは博士号を取得したい」と希望しています。
でも、本当に博士号って取れるのか、そしてどんなことをすれば取れるのか、気になっている人もいることでしょう。
この記事では、文系の場合、博士号はどれくらいの割合の人が取るのか、いったいどうやって取るのか、また博士号を取るとどんなことが可能になるのかを解説していきます。
さらに、時々耳にする「満期退学」と「修了」の違いについても詳しく見ていきましょう!
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文系博士号取得って、どれくらいすごい?
まず、文系で博士号を取得することがどれくらいすごいのか、あるいはすごくないのか、データを確認していきます。
文系で博士号を取得する割合は?
文系で博士号を取っている人は多くないと言われますが、いったいどれくらいの人が取っているのでしょうか?
ここでは、少し古いデータになってしまうのですが、平成22年度「博士課程修了者の進路実態に関する調査研究」を確認します。
このグラフでは、博士課程の学位取得者の割合が分野別に示されています。これを見ると、文系である人文・社会・教育では取得割合が低いですよね。
人文科学では4割弱、社会科学では6割弱、教育で5割弱となっています。理系では8割前後の数字ですので、かなり違いますよね。
では、文系で博士号を取得するには何をして、どれくらいかかるのでしょうか?
文系で博士号を取得するにはどうすればいい?
博士号を取得するには、どの分野でも学位論文を書く必要があります。
そして、そのもととなる論文(の一部)が学術雑誌に掲載される必要があります。
何本掲載される必要があるかは、分野や研究科によって異なります。
しかし、論文1本が掲載されるだけでもなかなか大変なことです。
文系ですと、先行研究のレビューをしたり、文献を読み込んだり、思考実験を重ねたり、調査や実験を計画して実施したり、といった方法で研究を進めますが、どうしても年単位で時間がかかります。
その上で学術雑誌に投稿するのですが、一度では採択されずに何度かトライしたり、他の学術雑誌に投稿したり、としているうちに1年が過ぎたりもします。
博士課程は通常3年間とされていますが、博士号取得までに実際もっとかかることも多くあります。
博士号取得までの年数を直接示すデータはないのですが、参考データがありますので、次のグラフを見てください。
これは、文部科学省の令和元年度学校基本調査のデーから作成したグラフです。
このデータで示されているのは「卒業生」で、ここには博士号を取った人もそうでない人も含まれています。
ですが、「なぜ修業年数を超過して在籍するか」を考えれば、それは「博士号を取得するため」という理由にほかなりません。
これを見るとやはり文系、特に人文科学と社会科学で最低修業年数卒業者の割合が低くなっています。
逆にその2つの分野では、4年以上超過の割合が高くなっています。
こうしたデータから、博士号取得に年数を要することが推測できます。
博士号は全員が取れるわけではなく、また取るのに年数も相当に要するということで、なかなかすごそう、そして大変そうなことがうかがえます。
では、その博士号というのが何に役立つのか、次に解説していきます。
博士号があれば何ができる?
博士号の取得が大変そうなことはわかりましたが、取得したらどうなるのでしょうか?
博士号があれば大学教員を目指せる!
現在、大学教員の公募の多くで、博士号取得が条件として明示されています。
ですので、「博士号があれば大学教員が目指せる」わけですが、あくまでも「目指せる」のであって「なれる」とは限りません。
文系研究者で専任教員になれる割合は高くなく、採用には研究業績や教育業績、授業での指導経歴など、さまざまなことが重視されます。
ですので、博士号を取得していることは「最低限の条件」であると言えるでしょう。
ただし、分野や応募する職位によって、修士号取得が条件になっていることもあり、必ずしも博士号を求められない場合もあります。
博士号を持っている方が給料が高い?
先ほど、専任の大学教員になるには博士号取得が最低条件である、ということを書きましたが、現在大学教員の教授職や准教授職にある人でも博士号を持っていないことがあります。
実は、少し前までは博士号を取得せずに専任教員になる人も多くいたのです。そして、何十年か研究を続けて定年になる頃に博士号を取得します。現在でも分野によってはこうしたことがあるかもしれません。
しかし、博士号を持っていないと博士課程の院生を指導することができない大学も多いようです。また、聞いた話では、博士号を持っている教員の方が給料が高いとか、博士号を取らないと准教授から教授に上がれない、というようなこともあるようです。
ところで、修士号を取得した状態で専任教員になっている人は、博士課程に進学しなかったわけではありません。博士課程は「満期退学」という扱いになっています。
では次に、「満期退学」とはどういうことなのか、見ていきましょう。
後期課程(博士課程)満期退学と修了ってどう違う?
「満期退学」というと「え、退学?」とネガティブに捉えられるかもしれませんが、これはれっきとした1つの学歴です。
満期退学と修了の違い
「満期退学」とは、博士課程の例えば3年間なら3年間、所定修業年限を修めて「単位をすべて取得した」状態になった後、大学院を卒業することを指します。
これに対し「修了」とは、博士号を取得して卒業することを指します。
満期退学という選択をする理由は、例えばこのようなものです。
- それ以上学費を支払うことができない
- 何らかの事情(研究の不足、健康状態など)で博士号の取得をあきらめる
- 博士論文を書かず、大学以外の仕事に就いた
- 博士論文を書き上げる前に専任教員の職に就いた
割合としては、①の理由が多いように感じます。大学院博士課程ともなると実家からの支援がない人も多く、奨学金を取ったりアルバイトで稼いだり、学振研究員としてお金を得ている人も多くいます。
④の理由はかなりまれかとは思いますが、分野によっては起こりえます。
では、満期退学をしてしまうと、もう博士号は取れないのでしょうか?
満期退学した後に修了もできる?
結論から言うと、満期退学した後に博士論文を書き、博士号を取って修了することはできます。
その方法をご紹介します。
満期退学したのと同じ指導教員のもとで博士論文を書く
たいてい、満期退学してから○年以内ならば博士論文を提出できる、という仕組みがあります。
そこで、博士論文のめどが立った時点で、学費の節約のためにも満期退学し、そこから○年以内で博士論文を書き上げる、という方法です。
論文博士として博士論文を書く
博士号を取得するためには、「論文博士」という方法もあります。通常のコースは「課程博士」と呼ばれ、大学院で単位を取りながら論文を書くものですが、「論文博士」とは、論文審査を受けて学位を取得する方法です。
ただし、課程博士の場合に比べ、審査が厳しくなります。
満期退学しても修了できるというのは、特に経済的な理由で満期退学せざるを得なかった人には有難いシステムですよね。
文系博士号取得のすごさまとめ
- 文系博士号は取得率も高くなく、取得に年数もかかる。
- 博士号は大学教員を目指す最低条件で、取得してないと不利になることもある。
- 満期退学は、博士論文を書かずに卒業することを指すが、満期退学後に博士号を取って修了することもできる。
文系博士号取得がすごいか、と言われると、博士号を持っていること自体がすごいのではなく、博士号取得に至るプロセスや、研究に邁進できることがすごいのでしょうね。
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