「医学部を卒業して医師国家試験に合格して病院の臨床医として働くぞ」という方が多いと思いますが、実は病院の勤務だけが医師の進路ではありません。
- 「同期の○○はそのまま大学院に進学したらしい」
- 「○○君、いま医療系ベンチャー企業で働いてるんだって」
なんて声を聞いたことがみなさんもあるのではないでしょうか。
この記事では、病院勤務以外に、医学部卒業生、医学系大学院生のキャリアとしてどのような進路があるのかについて解説していきます。
それぞれに向き、不向きがあると思いますので是非とも参考にしてくださいね。
医学部卒業後の働き方が多様化してきた背景
昔は、医学部卒業後は実臨床に進んで病院勤務をする場合は、臨床系の医局(循環器内科、消化器内科、など)にまず入局します。教授、医局長などに言われる病院へ勤務し、何年か後には大学院に入学。その後関連病院へ赴任、大学のポストに就く、海外留学する、などのように、ある程度型にはまったキャリアプランを大学医局がデザインすることが多かったです。
しかし、初期臨床研修(スーパーローテーション)が2004年から必須になったため、卒後必ずしも大学医局に入局する必要がなくなり、自分で勤務先を選ぶことができるようになったことで医学部卒業後のキャリアプランは大きく変わりました。
また、Twitter、FacebookなどのSNSの発達や転職系サイトの充実により、キャリアの多様化についての情報を多く入手できるようになったことも追い風となりました。
このような背景から、医学部卒業後の働き方は大きく変化を見せます
実際の卒業後の進路
医学部卒業後の進路としては
- 病院で臨床医として勤務
- 基礎系(臨床系)大学院に進学し、研究室に所属
- 大手製薬など企業に勤務
- ベンチャー企業に勤務
- 厚生省などの中央省庁に医官として勤務
などがあります。
それぞれ、向き、不向きや、進むために経験しておいた方がよい要件などがあります。
それぞれの進路についての解説をしていきます。
病院で勤務医として勤務
かつてはもっともメジャーであった進路ですが、いまもキャリアが多様化してきたと言え、もっとも多い選択肢になります。
その理由は、
- とりあえず一旦臨床技術を身につけたい
- 専門医を取得し、仕事を安定させたい
- 保険診療ができるようになり、バイトとして診療を行えるようにしたい
などが多いのではないでしょうか。
特に、保険診療を行うためには、卒業後2年間の初期臨床研修を修了しておくことが必須になり、バイトをするにしても提出を求められることも多く臨床のほぼ必須の条件となったことが大きいかもしれません。
初期研修を修了後に医師としてのアルバイトも続けながら、他の選択肢の基礎系大学院進学、省庁勤務、製薬会社勤務、ベンチャー企業勤務などに進むパターンも多いようです。
基礎系(臨床系)大学院に進学し、研究室に所属
医学部卒業後、そのまま研究室に入り大学院進学をするパターンです。
学部生時代から研究室に出入りして研究の基本的なことを習っている場合が多いようです。医学部だけでなく、理学部、工学部、薬学部、農学部などから医学系大学院に進学するパターンを取る人もいます。
卒業後そのまま大学院に進学するメリットは
- クリエイティブなこと(研究活動)ができる
- 研究は日進月歩のため、一度勤務医を経てから大学院に進学するよりもリードできる
- 多くの奨学金や研究費に年齢制限があるため、若いうちに研究を始めることで有利になりやすい
などがあります。
デメリットは
- 医学部以外からもライバルが多く参入するため、経歴を生かしにくい
- 一度臨床を経験している場合に比べると、診療系アルバイトができないなどのデメリットがある。
- ポストが任期付きなどのことが多く、将来が臨床医に比べると不安定
などが挙げられます。
ここまで、伝統的にメジャーであった2つの進路について紹介しましたが、次に最近注目されている他のキャリアについて解説します
大手製薬など企業に勤務
製薬企業というと、営業職であったり、薬学部卒の学術部門就職をイメージされることが多いかもしれませんが、実は医学部(医学系大学院)卒に対するニーズがあります。
例えば
- 基礎研究経験者を、研究職として雇用したい
- 臨床研究経験者に、新薬の臨床研究(治験など)のデザインを行って欲しい
- 実臨床経験者に、臨床経験から薬剤の有効性、安全性について評価して欲しい
などがあります。
メリットは
- 病院勤務や基礎系研究室勤務に比べると、勤務時間がはっきりしている。
- 会社勤務となるため、雇用が安定し、社会保障・福利厚生なども保証される。
- 医学部卒業という点を生かしやすい。
ことがあります。
デメリットは良くも悪くも会社勤務に適合する必要がある(就労時間を守る、社内で求められることに対応する、など)ことです。
就職にあたっては、業務内容にもよりますが、基礎系研究室での研究歴(医学博士を取得しているとベター)や臨床研究歴、これらの論文発表歴や、臨床医としての経験など、他学部卒に比べてプラスアルファを求められることも多く、卒後のキャリアプランが重要になります。
実際に就職した人に聞くと、製薬企業勤務の友人に声をかけてもらい応募した、という声が多かったです。
ベンチャー企業に勤務
基礎研究関連や機器関連のベンチャー企業というのも近年選択肢として増えてきています。
- 最新の技術を用いた受託解析会社(シークエンス、質量分析など)
- 電子カルテ、オンライン診療などのアプリケーション開発
- AIを用いたIoT開発企業
などがあります。
メリットは
- 病院勤務や基礎系研究室勤務に比べると、勤務時間がはっきりしている。
- 自由度が高く、好きなことをやりやすい
- 臨床経験がある場合には生かしやすい
デメリットは
- ベンチャー企業であるため先行きがやや不安定
- 社会のニーズに合わせて方向性を変えていく必要がある。
などが挙げられると思います。
特に、オンライン診療やIoT開発の分野は近年ホットで、病院臨床の先生たちと共同作業も多いため、臨床経験のある人材は優遇されるようです。
厚生省などの中央省庁に医官として勤務
厚生省などの中央省庁に入り、医官となる場合もあります。2年の初期研修終了後や、後期研修終了後に進むパターンが多いようです。
メリットは
- 中央省庁経験者ということで、キャリア上大きなプラスになる
- 官庁にコネクションができる
- 臨床経験(あれば)が生かしやすい
デメリットは
- 業務内容が多く激務
- 給料はそれほど高くない
- 書類系のデスクワークが多い
などが挙げられるでしょう。
直接応募する場合や、大学病院などからの派遣(人事交流)で入職する場合があります。
まとめ
この記事では医学部卒のキャリアとしてどのようなものがあるか、ざっくりと説明しました。
従来の病院勤務、大学院進学以外にも、
- 製薬企業勤務
- ベンチャー企業勤務
- 省庁勤務
など、選択肢は増えています。
進路によって、基礎研究・臨床研究の研究歴、臨床経験などがアドバンテージになる場合がありますので、そういったことも踏まえて卒業後すぐの進路を考えていくのが良さそうです。
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